眼瞼下垂について
眼瞼下垂

眼瞼下垂(がんけんかすい?眼瞼とは、まぶたのことです)とは、目が十分開きにくい、まぶたが上がりにくくなる状態を言います。まぶたを持ち上げるときに作用する筋肉(上眼瞼挙筋~じょうがんけんきょきん~)が弱まっているために十分に目が開かれず、まぶたが垂れ下がっている状態です。
眼瞼下垂は、生まれつきのもの-先天性-と、徐々におこってくるもの-後天性-とに分けられます。生まれつきまぶたが下がっている先天性眼瞼下垂では、まぶたをあげる筋肉の力が弱くなっている、もしくは筋肉自体が欠損しているため、十分にまぶたが上がらなくなっています。
徐々にまぶたが下がってくるような後天性眼瞼下垂では、加齢や病気、コンタクトレンズの長期装着などが原因です。加齢によりまぶたを持ち上げる筋肉(上眼瞼挙筋)の筋力が低下する、まぶたの皮膚がたるんで視界にかぶる、コンタクトレンズによりまぶたに負担がかかる、長時間のパソコンなどでの眼の酷使、神経麻痺やアレルギー疾患、外傷・手術後など様々な原因で発症します。

眼瞼の解剖
上まぶた(上眼瞼-じょうがんけん-)は、図のように皮膚、脂肪、筋肉、軟骨と何層かに別れていて、まぶたを上げる機能は主に瞼板(けんばん)と呼ばれる半月状の軟骨の板を、筋肉(上眼瞼挙筋-じょうがんけんきょきん-)が挙筋腱膜(きょきんけんまく)を介して奥に引き上げることによります。
上眼瞼挙筋にはミュラー筋という筋肉もついています。意識的に眼を開く場合は、動眼神経がコントロールする上眼瞼挙筋が、無意識のまばたきなどの場合は交感神経支配のミュラー筋が働くといわれています。
眼を閉じるときには、眼の周囲全体を覆う眼輪筋(がんりんきん)という筋肉が働きます。
眼瞼下垂の種類

眼瞼下垂は、生まれつきのもの-先天性-と、徐々におこってくるもの-後天性-の大きく2つに分けられます。

先天性眼瞼下垂

後天性眼瞼下垂の約3倍の頻度と言われており、眼瞼下垂の中で一番多いです。その中でも単純眼瞼下垂が9割を占めます。片眼の場合が多く(75%)、遺伝や、筋肉が生まれつきうまく出来ていないなどの理由で起こります。

後天性眼瞼下垂
  • 従来は神経麻痺、筋麻痺、筋無力症など神経や筋肉の疾患によるものが多かったのですが、最近は老人性の眼瞼下垂が増えています。また、パソコンの長時間使用、コンタクトレンズの長期装用といった眼を酷使することや、アトピー性皮膚炎や過剰なメイクなどで毎日まぶたを強く擦ったりすることが原因での眼瞼下垂も増加傾向にあります。
    後天性眼瞼下垂は以下のように様々な原因で発症しますが、老人性が3割強、神経麻痺が3割弱を占めます。

    • 老人性眼瞼下垂
    • 動顔神経麻痺
    • コンタクトレンズ眼瞼下垂
    • 重症筋無力症
    • 外眼筋ミオパチー
    • 眼内術後眼瞼下垂(白内障や緑内障手術後)
    • Horner症候群(交感神経麻痺)
    • 外傷性・機械的眼瞼下垂(外傷・腫瘍・異物など)
  • 老人性眼瞼下垂では、瞼板(けんばん)と上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)の間にある挙筋腱膜(きょきんけんまく)が延びてしまったり、ちぎれてしまうことで下垂する場合が多いです。まぶたの皮膚が加齢によりたるみ、重力で垂れ下がる眼瞼皮膚弛緩症を合併していることもあります。
    コンタクトレンズによる眼瞼下垂では、日常的なまぶたの内側への刺激により、挙筋腱膜がのびてしまうことが原因といわれています。
    これとは別に、眼瞼下垂のようにも感じますが、実際は眼瞼下垂ではないものがあり、偽眼瞼下垂と言われています。以下のような種類があります。

    • 眉毛下垂
    • 眼瞼痙攣(けいれん)
    • 眼瞼皮膚弛緩
    • 無眼球・小眼球・眼球癆
    • 眼球陥凹
    • 下斜視・外斜視
眼瞼下垂の症状

まぶたが下がることで視野が狭くなり、日常生活に不便を感じると、無理に開こうとして、そのために様々な症状が現れます。視野を広くしようとしてあごを上げてものを見続けていると、眼精疲労や肩こりがおこり、ひどい場合は頭痛やめまいなどがおこるともいわれています。無理に眼を開くために、眉間や顔にしわが増え、老けて見える原因にもなります。まぶたが重く感じ、イライラや倦怠感を感じることもあります。
これらの症状はいわゆる疲労でもおこりますし、他の様々な病気が原因であることも多いです。一概にすべての原因が眼瞼下垂であるとはいえないことも多く、またたとえ眼瞼下垂の治療を行っても良くならない場合も多いので、治療前に外来にてよく相談することをお薦めします。

眼瞼下垂の自己診断

眼瞼下垂かどうかを自分で確認するには、いくつかの方法があります。
まず、鏡に対して顔をまっすぐに向けて眼を軽く閉じます。眼を普通に開けたとき、まぶたが黒目の部分(瞳孔)にかぶさった状態であり、無理に開いたり眉を持ち上げなければきちんと開かない場合は、眼瞼下垂症の可能性があります。
もしよくわからない場合は、同じように鏡に向いて両眼を閉じ、両まゆの上を軽く指で押さえて、眼を開けます。無理なく両目が開けられる場合は、眼瞼下垂の可能性は低いです。逆に、開けても黒目に大部分がかかっているとか、おでこにどうしても力が入ってしまう場合には眼瞼下垂の可能性があります。眼瞼下垂の場合、下がったまぶたを普段からおでこの筋肉で持ち上げているため、まゆ毛を押さえることで上がりにくくなるのです。
また、まぶたが重苦しい、おでこや眉間のしわが深い、まゆ毛と眼の間が広い、いつもアゴを上げてものを見る、なども眼瞼下垂が疑われる症状です。

上眼瞼皮膚切除術

まぶたをあげる筋肉(上眼瞼挙筋)や腱膜はある程度働いていますが、まぶたの皮膚のたるみ(眼瞼皮膚弛緩症)が強く、下垂している場合に適応になります。筋肉や腱膜は手を加えず、垂れ下がった余分な皮膚を切除します。皮膚のみの切除のため、腫れや青あざは他の手術より軽い場合が多く、術後の痛みも少ないです。

挙筋前転術

のびてしまっている筋膜(挙筋腱膜)や、まぶたをあげる筋肉(上眼瞼挙筋)を瞼板からはがして、のびきった部分を切り取り、筋肉の長さを短くして瞼板に縫合することにより、まぶたをあげる手術です。挙筋腱膜と、ミュラー筋の両方を瞼板から一度はがして、再びナイロン糸で固定するため、正常の構造からはやや変わりますが、十分な長さの短縮が必要な場合や、挙筋前転術ではあげる量が不十分な場合に適応になります。筋膜を切るため、手術後のまぶたの腫れがおこる可能性があります。

上眼瞼つり上げ術

まぶたをあげる筋肉(上眼瞼挙筋)の力が、かなり弱いか、全くない場合に行われる手術方法です。特に生まれつきの眼瞼下垂や、神経麻痺の時などに適応になります。まぶたの筋肉では上げられないため、瞼板をおでこの筋肉(前頭筋)に、筋膜を介して固定し、前頭筋の力でまぶたを上げられるようにします。筋膜は、一般的には太ももの筋肉の膜を使います。太ももの外側に2か所ほど皮膚切開し、太ももの筋膜を採取します。その筋膜を扇状にして、まゆ毛の下を通して、まぶたと前頭筋との間をつなぎます。この手術は通常、全身麻酔下に行います。

経結膜的眼瞼挙筋短縮術

まぶたの皮膚に傷を付けず、裏側から結膜と筋肉を切除する方法です。程度の軽い眼瞼下垂では適応になることがありますが、効果が弱いことや、まぶたの裏側の筋肉であるミュラー筋を切除してしまうこともあり、適応は限られています。

埋没法

皮膚切開をせず、まぶたの表から裏まで糸を通し、その糸を皮膚の下に埋めるようにしてまぶたをあげる手術法です。眼瞼下垂がなく、二重を作りたいときなど、美容外科でよく行われている方法です。(当大学病院では行っていません)

まぶたの手術では、目の開き具合や、二重の位置など、左右対称を確認しながら行うことが必要であるため、通常は局所麻酔で行います。
目薬による麻酔の後、まぶたの表側(皮膚から)と、裏側(結膜から)に、26-30ゲージ針という細い針で、1-2mlの局所麻酔薬を注射して行います。まぶたは皮膚が薄く、顔の他の部分と比べると痛みを感じる程度は低いと言われていますが、注射の際には痛みを感じます。局所麻酔薬は1時間程度の効果がありますので、通常その間に手術は終了します。まぶたの奥の方まで手術がおよび、痛みがでてきた場合は手術中に麻酔剤の追加を行います。
手術直後よりまぶたが腫れます。腫れの程度は手術方法や個々人により違いがあります。腫れ予防のため、手術後はまぶたの上にガーゼを厚くのせ、圧迫します。また、血腫を防ぐため、手術の時に小さいプラスチック製の管(ドレーン)を縫合創の隙間から出しておきます。翌日には管を抜きます。また、まぶたに殴られたような青あざ(皮下出血)が出ることもあります。アザは約2-3週間で引けます。
これらの手術を行ったのち、まぶたの圧迫や安静が必要であるため、通常は1週間程度の入院が必要になります。入院後、手術の傷をチェックするため、基本的には毎日処置を行います。手術から1週間で抜糸を行います。抜糸と同じ日に退院となります。

眼瞼下垂治療にかかる費用

眼瞼下垂にかかる費用は、保険適応となるかどうかで大きく異なります。眼瞼下垂の症状が病的で、治療が必要と判断された場合は保険適応となり、基本的には3割負担となります。( 才以上の高齢者は 割負担です)手術方法により費用に差がありますので、外来受診時に聞いていただくか、または当院にお問い合わせください。
これに対し、眼瞼下垂の症状がなく、単に美容整形目的で二重の手術を行うとすれば、自由診療となり、50万円以上かかる場合もあります。
眼瞼下垂の症状があるかどうかを外来診察時に確認後、おおよその費用が試算できます。