脳血管内治療について

 脳血管内治療とは、脳や頚部の血管病変に対し、「カテーテル」という細い管を用いて行う治療です。「頭を切らず」に行うことができ、主に足の付け根や手首の血管から、カテーテルを頚部や脳の血管まで通して病変部の治療を行います。開頭手術などの外科手術と比べて、侵襲が少ないため身体への負担が少なくなり、入院期間が短くなるという利点があります。また、開頭手術では困難な脳の深部での治療が可能であり、治療によっては全身麻酔が不要で、局所麻酔で行うことができます。

 当院では2024年4月より新たにバイプレーン血管撮影装置が稼働となり、2方向から同時にX線透視が可能であるため、治療時間や造影剤投与量が低減され、高画質であることでより安全な治療が可能となりました。
 また、脳血管内治療は太ももの付け根にある大腿動脈からカテーテルを挿入して治療を行うことが多いのですが、治療後、止血のためにベッド上での安静が必要となります。当院では、手首の血管からカテーテルを挿入する経橈骨動脈穿刺を積極的に行っております。経橈骨動脈穿刺は患者さんの負担が少なく、止血が容易でベッド上での安静制限の少ないことが利点となっております。

大腿動脈穿刺
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橈骨動脈穿刺
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Trinias B12s with SCORE Opera(島津製作所)
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脳血管内治療の実際の様子
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① 脳動脈瘤(くも膜下出血、未破裂脳動脈瘤)

 脳の動脈の壁が風船のように膨らんだ状態を「脳動脈瘤」といいます。破裂していない脳動脈瘤を「未破裂脳動脈瘤」といい、多くの場合症状がありません。しかし中には、次第に大きくなって脳の神経を圧迫して症状が出現したり、破裂して「くも膜下出血」となることがあります。くも膜下出血になると、突然の激しい頭痛が出現し、吐き気や嘔吐を伴い、意識が朦朧としたり、意識を失ったりすることがあります。約1/3程度の方が死亡し、約1/3程度の方が介助や介護が必要な後遺症を残してしまう極めて重篤な病気です。

 再破裂すると致命的であるため、再出血予防の手術が必要となります。従来は開頭手術により脳動脈瘤の根元にクリップをするクリッピング術が一般的でしたが、1990年代以降はコイル塞栓術という脳血管内治療が行われるようになってきております。

 脳動脈瘤コイル塞栓術は、一般的には全身麻酔下で、マイクロカテーテルという非常に細い管を脳の血管へ誘導し、X線透視下で脳動脈瘤内へ誘導してプラチナコイルを詰めます。

 未破裂脳動脈瘤は、年間で約0.5~1%の破裂率であり、くも膜下出血となる危険性はそれほど高くありません。脳動脈瘤の大きさや場所、形状によっては破裂のリスクが高くなるため、破裂予防のための手術が必要となることがあります。また、脳動脈瘤が多発していたり、親族に脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の既往がある場合は、破裂のリスクが高くなると考えられています。

 未破裂脳動脈瘤に対する脳血管内治療は、脳動脈瘤のくびれがあまりない場合、コイルが正常血管に逸脱しないように、金属の筒状の「ステント」を留置することがあります。

 また近年は、「フローダイバーターステント」という編み目が非常に細かく血管の走行にフィットしやすいステントが開発されています。カテーテルを通じて脳動脈瘤の入り口を覆うように留置すると、脳動脈瘤内の血液が淀んで、ゆっくりと血栓化し内膜の形成が進んで、脳動脈瘤の入り口が閉塞されます。

 その他、WEB(Woven Endo Bridge)という、ニチノール(形状記憶合金)製の細かいメッシュでできたカゴ状のデバイスも本邦で使用できるようになりました。従来のコイル塞栓術では治療が難しかったワイドネック型(瘤の入り口が広いタイプ)や、主要な血管の分岐部にできた動脈瘤に特に有効です。これを動脈瘤の中に留置して血流を遮断し、瘤内の血液を固めることで破裂を防ぎます。

 当院では、コイル塞栓術、フローダイバーターステント留置術、WEB留置術のいずれの治療も対応可能となっております。

 脳血管内治療がすべての脳動脈瘤に対応できるわけではなく、動脈瘤の形や場所に応じて、開頭手術の方が比較的安全であると判断した場合は、開頭クリッピング術を行うこともあります。

コイル塞栓術
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WEB
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フローダイバーターステント
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留置6ヶ月後 

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留置1年後 

② 脳梗塞

 脳梗塞は、脳の血管が詰まることで脳細胞に血液が届かなくなり、酸素や栄養が不足して脳細胞が死んでしまう病気です。脳卒中の中でも約7割を占め、後遺症によって生活に支障が出たり、最悪の場合死に至ることもあります。

 脳の血管が詰まってから、4.5時間以内であれば、血栓を強力に溶解するアルテプラーゼ(t-PA)を点滴静注するt-PA静注療法により、血栓で閉塞した脳動脈を再開通させ、手足の麻痺や言語障害などの症状を改善させることが期待できます。しかし、この治療法は再開通率が約30~40%と低く、適用できる患者さんが限られているという課題があります。

 t-PA静注療法の限界を克服するため、カテーテルを用いた脳血管内治療である血栓回収療法が注目されるようになりました。血栓回収療法は、脳の太い血管が詰まった場合、主に足の付け根の血管からカテーテルを挿入し、脳の血管まで進め、ステントリトリーバーや吸引カテーテルを用いて血栓を直接取り除く治療法です。血栓回収療法によって、閉塞した血管の約70~80%が再開通すると報告されています。また、血栓回収療法は発症から6時間、症例によっては24時間まで治療が可能となっており、現在では標準治療となっております。当院では、脳血管内治療専門医が常勤しており、この血栓回収療法を迅速に行うことが可能となっております。

ステントリトリーバー
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吸引カテーテル
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左中大脳動脈閉塞(矢印)

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脳血栓回収術後

③ 頚動脈狭窄症

 頚動脈狭窄症は、動脈硬化の進行とともに頚動脈の血管内膜にプラークと呼ばれる余分なコレステロールが沈着して、血液が流れる通路が細くなる病気です。狭窄部の血管壁に付着した血栓やプラークの破片が剥がれて、脳の血管に流れて脳梗塞を起こしたり、狭窄の影響で脳への血流が不十分で脳梗塞を起こすことがあります。

 脳梗塞を予防するために、抗血栓薬、いわゆる血をサラサラにする薬の内服が必要となります。しかし、頚動脈狭窄が原因で脳梗塞を起こしたり、狭窄率が強い場合は、血管内のプラークを取り除く頚動脈内膜摘出術を行った方が脳梗塞の発症率が下がると報告されています。頚動脈内膜摘出術は、全身麻酔下で頚部を10cm程度切開する必要があり、神経損傷や出血のリスクがあります。

 頚動脈ステント留置術は、局所麻酔のみで手首や足の付け根からカテーテルを挿入して行う治療のため、頚部を切開する必要がありません。そのため、術後の回復が早く、入院期間が短くなる利点があります。肺や心臓に持病があり全身麻酔のリスクがある方でも治療が受けられます。頚動脈ステント留置術は、血管内のプラークを取り除くわけではないため、手術中にプラークが剥がれて脳の血管に飛んで脳梗塞を起こす可能性がありますが、フィルターやバルーンを用いてプラークや血栓が脳に飛んでいかないように工夫して行っております。

吸引カテーテル

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