「最近歩くスピードが遅くなった。方向転換時にふらついたり転びそうになった。」などと感じることはありませんか?それが正常圧水頭症という病気が原因のことがあります。正常圧水頭症は英語で Normal Pressure Hydrocephalus ですので、その頭文字を取って NPH (エヌ・ピー・エッチ)と呼ばれています。正常圧水頭症は手術で良くなる病気です。
正常圧水頭症(NPH)とは?
(詳しくは http://inph.jp をご参照してください。本文中のイラストは許可を得て同HPから借用しています)
それは①歩行障害 ②認知機能障害 ③排尿障害の3つで三大症状と呼ばれています。なかでも歩行障害が最初に現れることが多いようです。
開脚小股すり足歩行: 足を少し開いてよちよち、足が床から上がらず、すり足で歩きます。
ふらつき方向転換が苦手: ふらつくため方向転換が苦手で時間がかかります。
一歩目が出にくい、歩き出すと止まりにくい: そのため転倒してしまうことがあります。
意欲低下:これまでの活発さが無くなり、日中ぼーっとしている事が増えた。
反応低下:呼びかけてもあまり話さなくなった。
頻尿と尿失禁:尿意はあるが間に合わない。
この病気の原因には先行する脳の病気があるもの(これを二次性正常圧水頭症と呼びます)とこれを認めないもの(これを特発性正常圧水頭症と呼びます)に分けられます。二次性正常圧水頭症は、例えばくも膜下出血や頭部外傷や髄膜炎のような病気の後にみられるものです。一方で特発性正常圧水頭症はなんとは無しにとかいつの間にか徐々に病気が進行するため、発見が遅れたり、歳のせいとして諦められていることも少なくありません。
(ここからは特発性正常圧水頭症に絞って説明します。)
この病気は高齢者の病気であり、ほとんどが60歳以上の方です。当院の受診者の平均年齢は75歳であり、最高齢は89歳で手術をしてよくなられた方がいます。
上記の症状の1つまたは2つあるいは全てがある人に、外来で頭部CTまたは頭部MRIを行います。これらの検査で頭蓋内に過剰に脳脊髄液が貯留している所見(これこそ水頭症です)を確認すれば診断の第一歩です。
特徴的な症状があり、特徴的な画像所見があれば、正常圧水頭症と診断して髄液シャント手術による改善が期待されますが、手術による改善の予測を目的に手術前に髄液タップテストという検査があり、当院ではほとんど全例にこの術前評価の検査を行っています。
手術の方法は主に脳室-腹腔シャント術(VPシャント術)と腰椎-腹腔シャント術(LPシャント術)の2つが行われています。タップテストの効果や、MRIによる脊柱管の開存性の評価をもとに2つの手術法のいずれかを選択します。当院の最近10年間の手術実績をグラフで示しました。2010年と2011年はLPシャントが大半を占めていましたがその後VPシャントの比率が増加しています。
最近の症例のうち、6ヶ月以上手術後の経過を追跡できた患者さん34名の手術術式別の改善度合いを表にまとめています。いずれの手術法でも8割以上の患者さんが改善を示しています。手術後の合併症ではLPシャントで起立性頭痛が見られていますがほとんどは一時的な症状でした。
参考ウェブサイト:高齢者の水頭症 http://iNPH.jp