従来脳動脈瘤は破裂・出血しクモ膜下出血を起こして初めて診断されたものです。しかし、MRIの進歩により破裂前の脳動脈瘤が発見されるようになりました。
未破裂脳動脈瘤は、(1)無症候性と(2)症候性に分けられます。
(1)無症候性脳動脈瘤は何も症状がありません。
(2)症候性とは大きな動脈瘤が脳や神経の圧迫をして症状が起こります。
未破裂脳動脈瘤治療の目的は、クモ膜下出血の予防にあります。しかし、どの脳動脈瘤が破裂しそうなのかは正確に予測できません。しかし、(I)過去にクモ膜下出血になった、(II)動脈瘤による圧迫症状で症候性未破裂脳動脈瘤では、治療が必要です。
- 未破裂脳動脈瘤が発見された場合は、大きさ・形状などの説明を受ける。
- 脳動脈瘤の最大径が5mmより大きく、年齢がほぼ75歳以下では手術的治療が勧められます。特に10mmより大きい瘤には強く治療を勧めます。
- 手術をしない場合は、約6ヶ月以内に画像による脳動脈瘤形状の変化を観察します。形状の増大あるいは突出部の形成ができたときには手術的治療を勧めます。変化のない場合は、少なくとも1年間隔で経過観察を行います。
未破裂脳動脈瘤が破裂する危険率はおよそ1%弱と考えられ、手術するかどうかは、年齢、血圧、合併症などの要因を考慮して判断します。
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クモ膜下出血とは脳の表面を覆っているクモ膜下腔(クモ膜の下のすきま)に出血が広がった病気です。その原因は90%以上が脳動脈瘤の破裂によります。 脳動脈瘤とは大きさが4mmを越えると破裂しやすくなり(平均7mm)、破裂するとクモ膜下出血を起こします。その結果大量の出血が頭の中に流れ込み頭蓋内圧力が急激に上昇します。この程度による33%が手術不能、33%に後遺症が残り、33%の患者のみが社会復帰をはたせます。破裂前の治療が重要です。 動脈瘤破裂後24時間以内に再破裂の危険があり(4.1%)、発症後14日間の総出血率は19%に及びます。正常な状態で生存する人は発症後10年目でわずか約20%にすぎません。 特に脳動脈瘤の再出血は高率に予後を悪化させます。現在の医療水準でもクモ膜下出血の患者さんの死亡率は約45%と報告されています。 |
治療の目的は脳動脈瘤が破裂・出血することの予防です。予防処置としては開頭による外科的治療と開頭を要しない血管内治療を行う方法があります。いずれも動脈瘤の破裂を予防するための治療法です。
外科的治療は、開頭して脳動脈瘤の頚部に特殊な金属クリップをかけて脳動脈瘤を閉塞して血流が行かなくなるように処置(クリッピング術)することで脳動脈瘤の再破裂・再出血を防ぐ脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血における確立した標準的な治療法です。
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血管内治療は、脚の付け根の血管からカテーテルを入れてX線を見ながら頭蓋内の目的とする血管に到達させて脳動脈瘤まで誘導し、カテーテルの中から送り込んだコイルを瘤内につめることで出血を予防します。この長所は、開頭術によるクリッピング術が難しい部位(脳底動脈瘤)や、合併症のある高齢者でも可能なことです。ただし、頚部の広い動脈瘤や大きな動脈瘤(10mm以上)ではコイルの親動脈への突出や不完全閉塞、再開通が多くみられます。 |
予防処置としては開頭による外科的治療と開頭を要しない血管内治療を行う方法があります。未破裂脳動脈瘤に関する共同調査によると未破裂脳動脈瘤の治療成績は、外科的治療で社会復帰94%、後遺症6%、死亡0%、血管内治療では社会復帰93%、後遺症0%、死亡率7%と報告されています。25mm以下の内頚動脈系の無症候性脳動脈瘤の平均的な治療成績は死亡率1%、後遺症発生率5%程度です。
いずれの治療法においても、年齢、合併症の有無、治療の難易度などを総合的に判断して患者さん・ご家族とともに方針を決定していきます。
薬剤や放射線による代替治療は、脳動脈瘤の根治術にはありません。
この治療を受けない場合、前述のように脳動脈瘤の破裂・出血によりクモ膜下出血を起こす可能性があります。未破裂脳動脈瘤の破裂率は年間1~2%と報告されています。現在の医療水準でもクモ膜下出血の患者さんの死亡率は約45%に達すると考えられています。
一過性、または数週間つづく片麻痺、失語を繰り返す。頚部内頚動脈の内膜の肥厚、炎症による不安定なプラークの形成が起こる。
この不安定なプラークのあることで徐々に脳梗塞が進行する。この狭窄進行を予防するには抗血小板薬(バイアスピリン、クロピトグレル、等)を服薬して経過観察をする。
もしも、導尿病・高コレスレロール・喫煙などリスクのある方は事前にMRI検査を受けたほうが安心できます。
しかし、上述した症状の悪化、繰り返すようであれば、内頚動脈の狭窄部位の内膜を切除する(頚部内頚動脈内膜剥離術)。入院期間は約10日です。
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カテーテルにより狭窄部位にステント留置、血栓回収などを行うこともできます。これは狭窄部位のプラークの性状、不安定性などを考慮して、治療方法を決定します。術後は2種類の抗血小板薬を数か月服用することになり胃潰瘍などのリスクは増えます。
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片側の顔面筋、特に眼・口角周辺の筋肉がかってにぴくつき、けいれんする。緊張・疲れで増悪することがあり、目が開かない、食事・緊張などでけいれんが誘発されます。 |
顔の運動を支配している顔面神経に脳血管の一部、まれに脳腫瘍が圧迫していることが原因です。診断はMRIでできます。
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脳神経外科の手術によって治る病気です。この圧迫を解除することで完治します。
入院期間は約10日です。 -
顔面神経モニタリング
手術のときには、顔面神経を電気刺激ででる異常な筋収縮が消失することで治療効果の判定を術中に行います。
顔面けいれんの初期症状は片側の眼瞼周囲の筋肉のぴくつきから始まります。両側の眼瞼のぴくつきや、以前顔面神経麻痺にかかった方はその回復過程で似たような症状になることがあるので、主治医とよく相談してください。
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片側の顔面、特に口唇、眼の下などに走る電撃痛を繰り返す。右、または左の顔面に限局すすることが多い。食事、顔面の圧迫により痛みが誘発される。痛み止めが奏効することがある。 |
顔面痙攣と同じく、顔面の感覚をつかさどる三叉神経への血管の圧迫である。MRIにより診断が可能であり、手術治療により約10日で退院できます。この圧迫を解除することで完治します。
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耳の後ろに約5cmの縦皮膚切開、2cmの頭蓋骨に孔をあけます。三叉神経の走行を確認して、圧迫している血管をテフロンシートを巻き付けて、三叉神経圧迫部を減圧を行います。 服薬などで一時的に症状は軽快しても、やがて薬物の効果が少なくなってくる例もありますので、全身状態に問題がなければ手術治療が確実な治療となります。 |
三叉神経痛には、まず薬物治療を選択します。
まず、テグレトール(カルバマゼピン)、この効果があるということは三叉神経痛の診断となります。この診断をもとに手術治療で完治することが期待できます。
テグレトールは量により、ふらつき、眠気などの副作用との戦いがあります。
リリカも効果的です。25mg-75mgを服用することで鎮痛効果が現れれば、こちらも診断的治療となります。
いずれも副作用がありますので、副作用、鎮痛作用とのバランスをみながら処方をします。
乳児期から60歳代まで繰り返す意識減損、消失、意思疎通障害等、または"ひきつけ"おこす病気です。特に意識がなくなること、または全身痙攣になることが近年社会的にも注目されています。
- 繰り返す全身痙攣
![]() 皮質形成異常(青矢印:てんかん異常波の頻発)【術前】 |
![]() 異常部(青矢印)切除によりてんかん発作消失【術後】 |
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(1)MRI、CT、脳波による頭部検査
(2)抗てんかん薬による治療:現在10種類以上の薬があるため、てんかんの型に合わせた処方を行います。
(3)発作が抑えられたとき:薬物治療を少なくとも2年は継続します。
(4)発作が抑えられないとき:2剤以上の薬で発作が月1一回以上の起こるとき。薬剤抵抗性"てんかん"としての診断を行います。
脳波同時計測行いながら、約3-7日間の持続的な検査を個室にて行います。この時には薬を減薬して、あえて発作が起きるような状態とします。
(5)てんかん異常波起始部とMRI上で異常領域を切除。
(6)MRI上異常がないにも関わらず、てんかん波を認めているときには、より詳細な脳波検査を行うために頭蓋内電極留置をします。
- 術中X線を用いて、3cmほどの開頭部から電極を硬膜下に滑り込ませて位置を確認します。
- 必要に応じて両側に電極を留置します。
- 手術時間は左右併せて5時間ほどで終了します。
- 頭蓋内の異常(てんかん)波発射部位の正確な位置
- 複数のてんかん焦点では、異常波広がり状態がわかる。
- 脳皮質電気刺激により正常脳機能分布がわかる。
- 電極から計測した脳皮質電位を解析することにより、脳機能の局在と各脳部位との関連を把握できる。
つまり頭蓋内電極留置により、より正確、かつ信頼性の高い"てんかん"診断が可能になります。
適切な診断・投薬・必要に応じた外科手術を行います。
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資格など
- 日本脳神経外科学会 専門医
- 脳卒中の外科 技術認定医
- てんかん治療 専門医・指導医
- 覚醒下手術技術認定医
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得意な分野
脳外科手術すべてに対応します。
- 脳動脈瘤
- 頚動脈狭窄症
- てんかん
- 顔面けいれん
- 三叉神経痛
- 脳腫瘍全般
- 小児てんかん手術
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手術実績
総数 2,590例
脳動脈瘤クリッピング術 522例 内頚動脈内膜剥離術 334例 顔面けいれん 182例 三叉神経痛 153例 頭蓋内外バイパス術 102例 てんかん手術 62件 脳腫瘍 1,225例 髄膜腫 321例 聴神経鞘腫 92例 脳原発腫瘍 560例 脊椎・脊髄などを含むその他 252例 -
職歴
1988年 北海道大学 脳神経外科 2003年 東京大学 脳神経外科 助手 2006年 同 講師 2009年10月-2013年3月 JST さきがけ研究員(脳情報の解読と制御) 2010年1月-2019年3月 旭川医科大学 脳神経外科 教授 2017年 スタンフォード大学(米)脳神経外科客員教授 2019年3月 北晨会 恵み野病院 副院長 2019年4月 ATR 国際電気通信基礎技術研究所 -
主な受賞
- 日本脳神経外科学会ガレーヌス賞 受賞(平成6年10月27日)
- アレキサンダーフンボルト奨学金(ドイツ連邦共和国より)取得
(平成7年12月1日より2年間) - 北海道医学賞 受賞(平成9年3月27日)学位論文
- 高松宮妃癌研究基金(平成18年2月)
- 東京大学脳神経外科同門会賞(平成19年)
- 北海道知事賞(平成29年)
- 北海道医師会賞(平成29年)
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留学歴
1995年 ドイツエアランゲン大学留学、ドイツ国費留学生 1997年 アメリカ ジョージタウン大学、認知コンピュータ科学研究所、助手 勤務
両施設で大脳生理学、脳機能画像化の臨床研究に携わりました。 -
お知らせ
『てんかん手術で側頭葉底部の詳細な機能局在の発見』
『リアルタイム脳機能モニタリグと機能読み取りの確立』
(文部科学省 科研費特集号) -
趣味 スキー
オーストリア(Linz)